Social Worker's Note

社会福祉士です。現場で感じたことや考えたことを発信します。

絶版になる前に

eureka742007-06-09

 草薙厚子『僕はパパを殺すことに決めた』(講談社)を読了。非公開であるはずの少年審判資料がざくざくと掲載されているという意味でもスキャンダラスな作品。裁判所より注意が与えられているので、再版はないかもしれないので急いで購入。多分弁護士側からもれたんだと思いますね。

 まずはこの資料の「流用」について。著者の引用の仕方によることも大きいのではでないかと思いますが、この本が社会に公開されたことで、彼の今後の人生を左右するとは思えない。彼個人が引き起こした犯罪ではあるけれども、彼が生きてきた社会のなかで起こった事件でもあり、社会のなかで検証されるべき事件だと思います。

 心理的虐待の悲しい1つの事例としても読むことが出来ます。虐待は相手を大切に思うという対の幻想に基づいて起こる暴力である。対の幻想への執着が強ければ強いほど暴力は強くなります。事件を解く鍵として「広範性発達障害」というキーワードが登場しますが、これは1つの要因に過ぎないと思います。最後にこのキーワードを出されると、ここまで展開してきた現実をうまくまとめられてしまった感じがどうしてもしてしまいます。

 この本を読んだとしても、人は自らの子息に対して強い期待をかけてしまうし、同じような事件は今後も起こってしまうだろうと思う。対の幻想はそれくらいに強力である。