Social Worker's Note

社会福祉士です。現場で感じたことや考えたことを発信します。

言葉を何のために使うのか。

 

 

 

告発 児童相談所が子供を殺す (文春新書)

 

 発売直後にすぐに購入して読んだのですが、あまりに気分が悪かったので、しばらく放置しておきました。しかし、この本が放った砲弾の力をきちんと評価しておかないと今後の議論が荒くなるような気がしますので、ここで取り上げることにしました。

 

 タイトルからも分かる通り、児童相談所内部告発です。著者が勤務していた児童相談所の内部が暴かれています。内部にいた者にしか分からない世界が描かれており、ベールに覆われていた内部が明らかになったという点は積極的な評価をしておいてもいいかもしれません。

 

 一方で、著者の万能感に基づいて現場を罵倒しているだけとも言えます。自分がいかに優秀であり、それ以外の者がいかに無能であるのかという論調は読んでいて、気持ちのよいものではありません。そうやって周囲を貶めて、自分の価値を高めるという戦略自体を否定するものではありませんが、私の価値観には合いません。

 

 人間に与えられた言葉という機能は何のために使われるべきなのかということを考えさせれます。私は、言葉というのものは他の人たちと問題を共有し、一緒に取り組んだり、改善していくために使われるべきものだと考えます。自分が社会で発する言葉がどのように他者に影響を与えるのかという言葉に対する感性が弱いというのがこの著作の欠点であると思います。

 

 これは臨床の現場でも同じことです。支援者は、言葉を用いて、保護者と一緒に考え、よりよい家族関係を作っていこうとします。言葉は保護者を否定したり、貶めたりするために使うものではありません。

 

 この本を読んでみて改めて児童相談所という現場は適切な言葉で語られなくてはならないとも思いました。ここまで書いて過去の文献を思い出しました。

児童相談所はいま―児童福祉司からの現場報告 (新・MINERVA福祉ライブラリー)