Social Worker's Note

社会福祉士です。現場で感じたことや考えたことを発信します。

杉山春『家族幻想』

家族幻想: 「ひきこもり」から問う (ちくま新書)

 

 杉山春さんの新著です。『ネグレクト』を読んで、自分のキャリアが決まってしまった私としては、杉山さんの新著を読み落とすわけにはいきません。さっそく購入して一気に読んでしまいました。

 

 今回は「ひきこもり」がテーマです。長期間に渡る取材と取材対象者との距離感を図りながら、「ひきこもり」の現実を紡いでいきます。

 

 吉本隆明芹沢俊介が、「ひきこもり」に孤立することの価値を付加したのとは別に「ひきこもり」当事者とのかかわりから、「ひきこもり」という現実を説明している点で、この著作には価値があると思います。

 

 杉山は、「ひきこもり」は、「その人を縛る内面化された価値観」により引き起こされるのであり、その価値観は「時代の常識であり、それぞれの家庭が引き継いできた価値観」によって作り上げられると説明します。「ひきこもり」というのは、一つの防衛の在り方なのだと思います。

 

 この著作のよい所は、いわゆる「回復した」「成功した」事例ばかりが登場していない点にあります。「ひきこもり」という現実をじっと見つめ、それを言葉にしている点にこの著書の誠実さがあります。

 

 今回の著書の白眉は、杉山自身の生い立ちを振り返り、生き難さの起源に迫ろうとしている点だと思います。取材対象者の生い立ちだけではなく、自分自身のそれに迫ったことで、この著者は、単なるルポルタージュの域を超えて、読む者の心を揺さぶります。そして、それは読む者に同様の作業を引き起こす力を持っているかもしれません。

 

 とても大事な著作だと思います。